2020年7月10日
特別給付金の10万円を受け取った。どう使おうか考えていたらふと、ホームレスの人達は果たして受け取れているのか、気になり始めた。以前、ロンドンのスーパーマーケットの前で座っていたホームレスの男性が、住所がなくて銀行口座を開けないから給付金も受け取れないんだと話していたのを思い出したからだ。世帯主である父親から渡された10万を見つめながら、本当にお金が必要な人に届かないなんて理不尽だけど、果たしてどうなんだろうかと言う疑問が引っかかり、私は、ふともし助けが必要な人がいるなら、もらえたこの10万円で私にできる手伝いをしようと思い立ち、新宿西口へ向かった。
そこには変わらず、ホームレスと思しき年配の男性達が少し間隔を開け、通路の脇にダンボールを敷いて静かに座っていた。何か声をかけたかったが、何度か彼らの前を通り過ぎるだけで精一杯だった。自分の内側から自分がやりたいように身体を動かすことへの強いブレーキがかかっているような感じだった。この内側にある抑制力は私に、周りの通行人と同じように体を動かすよう暗に強制しているようだった。結局この日は誰にも何も話すことなく帰った。
ここではじめて自分自身で逸脱行為を規制していることに気が付いたのだ。私たちの身体は近代社会において兵士や工場などでの労働力として上手く機能する「従順な身体」(フーコー, 2020)になるよう上手く仕込まれている。今でも日本の公立中学校の卒業式の前に行われる練習が良い例だろう。女子は座る時は足を閉じ、手は左手が上になるように重ねて両太ももの中央に置く。男子は足を拳二つ分開き、軽く拳を作って太ももの真ん中におく。そして規律や着席の合図に合わせて、同じタイミングで動くように練習する。このようなトレーニングの積み重ねの成果であろう、いつの間にか私も自分から自然と周囲に合わせて動きを抑制するようになっていた。
2020年7月15日
西新宿にいるホームレスの人たちが本当に特別定額給付金を受け取れているのかの実際のところ、そしてこのコロナ渦で彼らがどんな日常を過ごしているのか知るために、私はもう一度簡単な脚本を書いてみた。自己検閲に対抗するために、自分の台詞が必要だったからだ。
参考文献
ミッシェル・フーコー 著、田村俶訳(2020) 『監獄の誕生〈新装版〉: 監視と処罰』新潮社
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