top of page
検索
執筆者の写真Kyoko Akimoto

今日も西新宿は雨です: 2020.7.15

2020年7月15日 続き


自分で強く理由を持たないと、自己検閲に逆らって行動するのは難しいと思う。なんで私は新宿西口のホームレスに会いに行きたいのか。彼らに自分の思いも自然に伝えつつどう話しかけるか、セリフを書き実際に演技して、スマホでビデオ撮影した。全部で3テイク撮った。1回目はどもってばかりで不審者のようだった。3回目になるとなんだか親切そうな人に聞こえてきた。それでようやく、新宿駅西口へ向かった。


会話の始まり

新宿駅西口に到着し、思い出横丁方面に歩きだす。すると、すぐに路上に座る人たちの姿が見えてきた。その中で一人、詩が書かれた色紙を並べているおじいさんがいた。色紙の前で立ち止まる。ホームレスの詩(うた)を読み、その色紙のありよう、佇まいをみていると外側では分からない彼のこころや経験から出てきた言葉だと分かるような気がした。色紙を静かに読んでいると、クロスワードゲームの雑誌を読んでいたおじさんが顔をあげる。目が合った時の感じがいやな感じがしなくて、直感的に「あ、この人となら話せそう」そんな判断をこの瞬間にしたように思う。自然とあいさつして会話が始まった。あまりにも自然に話し始めたので、用意したセリフは全く口に出ることはなかった。


「こんにちは。この詩は今日書いたんですか?」

「いや。思いついた時に。ひまだもん。」

「実は私も時間あって、、少し話してもいいですか?」


そうたずねると、おじさんはミニサイズの折りたたみ椅子をすすめてくれた。おじさんはSさんという。よく見ると、もう一人、奥の方で寝ていた。ここではおじさんのことをSさんと呼ばせてもらう。


私は彼にロンドン で半年過ごして、戻ってきたことや、ロンドン や東京で路上で生活する人に対しての通行人のリアクションについてずっと考え、リサーチしていることを伝えた。先週もここにきたけれど、どうしても立ち止まれなかったと言うとSさんは、「たまにここを知りたいって来る人いるよ。学校の先生がきたこともある。もし、知りたきゃ、ここで一晩過ごして過ごして見りゃいいよ。ダンボールや毛布を貸してくれるところもある。長いことやるのはおすすめしないが、やりたきゃ一日ここに座って見てみなよ。」と拍子抜けするぐらいあっさり私が彼らのことを知りたいのだということを受け入れていた。それと同時に、「闇雲に声かけちゃ危ないよ。酒飲んで人が変わるやつもいっぱいいる。話しかけて大丈夫かよく観察しないと。観察力が大事だよ。」とも話してくれた。


SさんとKさん(彼女もホームレスである)とで色々なことを話していたらあっというまに時間が過ぎていった。知らない同士の会話は時に心地いい。運がいいと、しがらみがなく本音を言える時がある。Sさんは色々なことを話してくれた。日曜には、都庁の下で新品同様の服を配ってくれる慈善団体があること、彼の人生が変わったきっかけ、区役所の職員のことなど。私が、特別給付金のことを聞くと、このあたりの路上生活者はだいたい手続きを済ませているらしい。ネットで検索しても全然実際のところわからないんですよ、と言うと、Sさんは「そらそうだ。借金しているやつも多いし、わざわざそんなこと言わない。」と言っていた。


私もたくさん質問したけれど、SさんKさんも私の家族や恋愛模様について随分心配して聞いてくれた。そして何度も、ここに長くいることはすすめないよ、と念を押してくれた。どうやら、ここにこんな風に話しにくる人は私一人じゃないようだ。ここにわざわざ来るってことは何かしら抱えているもん、とKさんはぽろりと言った。そうかもしれない。生活の中で何の違和感も抱えていない人は、ここで立ち止まらないのかもしれない。


夜ご飯


6時近くになって、お腹が空いてきたので、Kさんに一緒にご飯食べましょうと誘った。私は一人で近くのコンビニへ向かった。立ち上がり、町を歩くと少し、見え方が変わっていた。ホームレスから見たら、町を歩き、買い物をするにもたくさんのコードが存在しているように思えた。私は百貨店に入り、トイレを利用した。自分がもしホームレスだったら気軽にキレイな百貨店のトイレを使えるだろうかと考えてしまった。温めてもらった弁当 三つとおにぎりをいくつか買って、彼らがいた場所に戻った。最初、私は先ほどまでいた場所を通り過ぎてしまった。Sさんが戻り、弁当をみると嬉しそうな表情で「こんなもん暮れと正月しか食べないよ。なんでこんな娘にいい人がいないのかねぇ。」としみじみ言っていたので私も笑って「私も新宿西口の路上で食べるご飯は初めてです。」と言った。


立ち止まる人達


5時間の中で、二組み、Sさんの詩の前で立ち止まっていた。けれど、SさんかKさんが反応しようとすると去った。あの人達の感覚が分かるような気がした。興味はあるけれど、会話が始まることに抵抗がある感じ。多くの日本人は、成長の過程で、知らない人に話しかけてはいけない、と教えられる。知らない人や変なものには近づかない方がいい。それらは危ないかもしれないから。


5時間の中で、私が気づく限り、ただ一人、西欧系の男性が詩の前に置かれた器にお金を入れていった。彼は通り過ぎるたびに小銭を置いていくらしい。Kさんが大きな声でありがとう、と言うと彼は会釈をして去っていった。小銭を置いてくれる人の多くは外国人か日本の外で暮らしたことのある人だとSさんは言う。「多くの日本人はどこかホームレスを見下したし蔑んだ目でみるよね。でも外国人の方が自然に見てくれている。」私自身、以前はホームレスとの関わりはビッグイシューを買う時だけだった。なぜなら販売員なら安全だと思っていたから。ホームレスの人たちの力になりたいと思いながら、彼らを怖いと思う気持ちもあったことを思い出した。


5時間の中で、何人もの路上での友達らしき人たちが挨拶に寄っていた。中には、今はアパートを借りているけれど、もともとこの通りに住んでいた人もいた。一人、どら焼きをおすそ分けしにきた。それからもう一人、千円を手渡しにきた。私が驚いた顔をしてみていると、Sさんは、彼が以前貸したお金を返しにきたのだ教えてくれた。やはり、貸したお金は帰ってこないことが当たり前らしく、ラッキー、といった感じで喜んでいた。Sさんはその千円をポケットに入れ、どこかへ買い物にいってまた帰ってきた。ビニール袋には百円均一でほうきセットと、オレンジジュース、色紙などが入っていた。Sさんは私にオレンジジュースを手渡してくれた。


帰る前に、Sさんは好きな詩を持っていっていいよと進めてくれた。色紙を書くのに百円かかることを知っていたので、百円分だけでも渡そうとしたらご飯までご馳走になって、もらえないよと断られた。Kさんとお別れの握手をした。また話したくなったらおいでといってくれた。Sさんにも手を伸ばすとSさんは「まだいいの?」と驚いたように言った。何がまだいいという意味かはっきりわからなかったけれど、まだこんな風に人と接していいの?の意味だったのかしら。それともコロナ自粛のことかしら。また会えた時に聞いてみたい。






閲覧数:9回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page