2020年1月24日
夕方、大学から帰宅する途中のオーバーグラウンドでの出来事。
若いホームレスの女性に遭遇した。非常に細いシルエットで、特に弱々しい雰囲気だった。震えるようなハスキーボイスで乗客に小銭を頼むと何度も謝りながら通り過ぎていった。彼女の特に困窮した様子に小銭を渡そうかと考えたが、他の乗客が何も反応していない様子を見て、彼女には何も渡さないでおくことにした。その疲れた様子に同情すると同時に、分かりやすい気の毒さに反応するのがあまりにも単純なのでは、だから他の乗客も彼女を無視するのではなど考えているとなんだか余計に疲れてきた。
寮の最寄り駅Shadwellにつく前に、大学のスタジオに忘れ物をしていたことに気づき、引き返し、また大学のあるNew Cross GateからShadwell方面のオーバーグラウンドに乗った。
ぼんやり座っていると、先ほどの女性がまた、通路の真ん中に立ち、先ほどと全く同じように話し始めた。私は、再び彼女の痛ましい様子を見ながら、イラつきさえ感じていた。慣れない生活でただでさえ疲れていて、彼女にどうするべきか、なんて考える余裕もなくなっている私の前にもう一度現れて、試されているような気分になってきたのだ。
もう、今は、考えたくないのに。
うんざりした気分になり、彼女に小銭を渡す気には全くならなかった。私の目の前に座っていた年配の女性が財布を取り出し、彼女に小銭を渡していた。
彼女のことをもう少し細かく観察してみた。顔や服装からおそらく20代だろう。カーキのジャケットは彼女には少し大きい。ジャケットのフードを被っていて顔がはっきりは見えないがブロンドのショートヘアでもともとは可愛らしい雰囲気の顔立ちに思えたが、怯えるような表情で、見るのに気が引けた。スキニージーンジズは彼女の細さを一層引き立てていた。足元を見ると黒の汚れたフラットなスニーカーに靴紐はなかった。小脇には、先ほどななかったポテトチップスを一袋抱えている。
しばらくすると、彼女はまた戻ってきた。一通り電車内を回ってきたのだろう。どうやら私と同じShadwellで降りるらしく、扉が開くのを待っている。扉が開くのをまつ少しの間、彼女がもうほとんど泣きそうな表情になっているのが見えた。
その瞬間、私の彼女に対する少し冷たい気分は一気に均衡が崩れた。
私が彼女の立場だったら、どんなに惨めで孤独か想像せずにはいられなかった。頭で想像すると言うより、その辛さが不意に私自身の身体に滲んでくるような感覚だった。
扉が開く。私は彼女の背中を追った。彼女はまた、反対側ホームへ向かった。階段の途中でとまり、小銭を数えている。私は、彼女に追いつき小銭を渡し、ホームレスのためのシェルターがあるのを知っているかと尋ねると、知っているけど、利用者が多く自分は入れないという返事。私はもうそれ以上言葉を続けることができなかった。
それでも彼女に、あなたのことを気にかけているよ、と伝えたくて彼女の左腕にそっと手を当てて、状況がよくなるといいね、とだけ伝えた。彼女は小さな声でありがとう、マダムと答えた。
その時、彼女の顔を近くで見て、たくさんの赤い痣があることに初めて気が付いた。それがアレルギーなのか、皮膚疾患なのか、怪我なのかはわからなかったが、彼女がフードを深く被っているのはおそらくこの痣のせいだろうと思った。
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